アルゲンタビスは600万年ほど前、現在の南米アルゼンチンに棲息していたとてつもなく大きなコンドルです。
小さく見積もっても翼開長 (翼を広げたときの端から端の長さ) は5メートル以上、おそらく7~8メートルはあったと考えられています。
現世最大のコンドル、アンデスコンドルは翼開長が3メートルを超す巨大なコンドルですが、それの2倍以上あることになります。
体重と筋肉量の関係から計算していくと、「飛べる鳥」の最大は15キロぐらい、うんと頑張っても20キロぐらいが限度ではないか、といわれています。
アンデスコンドルは12キロほどですから、ほぼ限界の大きさに達していると考えられます。
実際、アンデスコンドルは羽ばたいて飛ぶのは苦手で、地面から飛び立つとき、逆風をついて飛ぶとき以外は羽ばたくことはせず、専ら上昇気流任せの飛行方法です。
アルゲンタビスの体重はどれぐらいあったのでしょう?
驚いたことに、アルゲンタビスの体重は70キロぐらいから、もしかすると100キロを超えていたのではないかと推測されています。
「空を飛べる鳥」の体重の限界を遙かにオーバーしています。
アンデスコンドルの約2倍の大きさがあるのなら、筋肉も同様に増加しているので飛んでも不思議ではないのではないか?と思う人もいるかもしれませんが、そう簡単にはいきません。
筋肉の強さは断面積に比例しますので、姿形をそのままに体を大きくしていくと、体重は体長の3乗に比例して増えていきますが、体の表面積や筋肉の断面積は2乗にしかなりません。
たとえば体長が2倍になると、体重は8倍になりますが、筋肉の表面積は4倍にしかなりません。
仮に体長が10倍になると体重は1000倍になりますが、筋肉の表面積はわずか100倍にしかなりません。
体重の増加量に見合うほど筋肉の断面積が増えていないことが分かります。
からだが大きくなればなるほど、相対的に筋肉の負担が増えていくことになります。
アンデスコンドルですでに飛ぶのに苦労している状態ですから、もはや筋肉にそれ以上負担をかけるのは無理、アルゲンタビスは飛べるはずがない、という結論に達してしまいます。
計算上からも、また現世のアンデスコンドルから考えても、アルゲンタビスが空を舞うのは不可能のように感じます。
コンピュータでアルゲンタビスの飛行をシミュレートしたところ、やはりこの筋肉量では地面から飛び立つのは難しかったのではないか?と考えられています。
では、かれらは巨鳥ジャイアント・モアやロック鳥のモデルとなったエピオルニスのような飛べない鳥だったのでしょうか?それにしては立派すぎる翼を持っています。
かれらは確かにどこにでも棲める鳥ではなかったかもしれません。
しかし、かれらはこの地域の地理的利点、つまり傾斜や上昇気流をうまく利用し、問題なく空に舞い上がることが出来たと考えられています。
舞い上がってしまえば問題はありません。
大きく面積の広い翼は滑空飛行に適しており、現世のコンドル同様、一度空に舞い上がってしまえばほとんど羽ばたくことを必要とせず、空からエサを探し求めていたのでしょう。